傀儡の恋

BACK | NEXT | TOP

  71  



 それからは怒濤の展開だった。
 マルキオ達を避難させると同時に、カガリを結婚式場から強引に連れ出した。その時にオーブの軍人達がこちらに対し手心を加えてくれたような気がするのは錯覚ではないだろう。
 軍の中にも現状がいいと思っていない人間がいるのだろう。
「……カガリには自由が似合いますもの」
 ラクスがつぶやくようにそう言った。
「きっと怒っているでしょうけど……連帯責任と言うことで、いいですわね」
 さらに彼女はこう告げる。その笑みを見て、誰も反論をする気力を失った。と言うよりも、逆らってはいけないと判断したといった方が正しいのか。
「キラにだけ責任を押しつけるわけにはいきませんからね」
 苦笑と共にラウはそう言う。
「キラだから大丈夫だとは思うがな」
 カガリはキラを大切にしている。だから、とバルトフェルドも笑う。
「もっとも、俺たちは覚悟しておくべきだろう」
 それは仕方がない。そそのかしたもの事実だし、と誰もが腹をくくった。

 一人一発ですんだのはカガリなりの配慮だったのだろうか。
 せっかく着飾っているのにもったいない。そうつぶやいたバルトフェルドがさらに攻撃を受けていたのは逆鱗に触れたからだろう。
「やっぱり不本意だったんだね、カガリ」
 いや、違う理由からではないか。そう思うが、誰も指摘できなかった。

 自分たちはこれからどうするつもりなのか。
 それに関して即答できるものは誰もいない。
「当面は静観するだけにしておくべきでしょうか」
 キラがこう問いかけてくる。
「僕たちが下手に介入すれば、さらに泥沼になるような気がします」
 彼はさらにそう続けた。
 そう考えたのは、自分自身の戦闘能力の高さを正確に認識しているからだろう。
 確かに、キラとフリーダムの存在だけでも状況をひっくり返すことが可能ではないか。それにバルトフェルドと自分もここにいる。カガリは戦場に出せないとしても戦力としては十分すぎる。
「そうですわね……まだ、プラントがどのように動こうとしているのか。掴めていませんもの」
 ラクスもこう言ってうなずく。
「ならば、決まりだな」
 この二人が結論を出したなら翻せるのはカガリだけだろう。
 だが、彼女は口を開かない。
 こうなれば、これからの方針は決まったも同然だ。バルトフェルドがそう判断したとしてもおかしくはない。
「その間に少しでも情報を集めるか」
 さらに彼はこう続ける。
「そうですね。データーは少しでも多い方がいい」
 ラウも異論はない。
「ただし、キラは禁止だぞ。お前は少しでも休め」
 そうでなければ、マードックの手伝いでもしていろ。バルトフェルドはさらにこう付け加えた。
「……そんな……」
 当然のごとく、キラは抗議の声を上げる。
「カガリ。監視を頼む」
 それを最後まで言わせることなくバルトフェルドはこう言った。
「そうだな。それがいいか」
 キラの精神状態を鑑みたのだろう。カガリもそう言ってうなずく。
「キラ。戦闘の時要になれるのは君だけだ。だから、少しでも体調を整えて起きなさい」
 ラウはラウで理由を説明する。
「……わかりました」
 完全に納得できたわけではないのだろう。それでもキラは小さくうなずいてみせる。
「キラの面倒はそいつの方がいいような気がしてきたぞ」
「よろしいではありませんの。あれよりましです」
「キラ君がいいなら、それでが一番よ」
 それを見ていたのか。こんな会話が耳に届く。
「みんな……何を言っているの?」
「気にしなくていい」
 キラの疑問にカガリがこう言い返す。
「そういうことじゃなくて!」
 彼の叫びに、ブリッジ内に笑いが響いた。

BACK | NEXT | TOP


最遊釈厄伝